大判例

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岡山地方裁判所 昭和54年(レ)15号 判決

控訴人

(付帯被控訴人、以下単に控訴人という。)

妹尾真龍こと

妹尾百一

被控訴人

(付帯控訴人、以下単に被控訴人という。)

有限会社昭和不動産

右代表者

猿渡秀夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。控訴人は、被控訴人に対し、金三万円及びこれに対する昭和五四年一月一一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人のその余の請求を棄却する。

三  本件付帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを八分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(控訴)

一  控訴の趣旨

1 原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

(付帯控訴)

一  付帯控訴の趣旨

1 原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。

2 控訴人は、被控訴人に対し、金一四八、五〇〇円、及びこれに対する昭和五四年一月一一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

二  付帯控訴の趣旨に対する答弁

付帯控訴を棄却する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、宅地建物等の仲介を目的とする有限会社である。

2  被控訴人代表者は、昭和五二年七月ころ、控訴人から吉備郡真備町内に約三〇〇坪程度の宅地の貸付斡旋仲介の依頼をうけ、これを承諾し、不動産仲介契約が成立した。

3  そこで被控訴人代表者は、控訴人に対し、四、五ケ所の物件を紹介、案内したが、控訴人の気に入るところとならなかつた。

その後、岡山地方裁判所倉敷支部で競売進行中であつた吉備郡真備町上二万字大池之奥三一〇五番一三五号宅地224.36平方メートル及び同地上の家屋番号三一〇五番一三五木造スレート葺弐階建居宅(以下「本件宅地・建物」という。)を紹介し、数回案内するとともに、競売手続等の説明もした。

4  右被控訴人代表者の紹介、斡旋により、昭和五三年四月不詳日、控訴人は、本件宅地、建物を金六二五万円で競落した。

5  控訴人を本件宅地建物へ案内した昭和五三年三月ころ、控訴人は、被控訴人代表者に対し、不動産取引が成立したときには建設省告示第一五五二号第一によつて計算した最高額を報酬として支払うことを約した。

仮に右合意の存在が認められないとしても、被控訴人は控訴人に対し、当然に右告示最高額の報酬を請求することができるというべきである。

6  よつて、被控訴人は、控訴人に対し金二四七、五〇〇円及びこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和五四年一月一一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3項の事実は認める。

2  請求原因4項の事実のうち被控訴人代表者の紹介斡旋と競落の間の因果関係は否認し、その余の事実は認める。

3  請求原因5項の事実は否認する。

4  請求原因6項は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3項の事実、及び同4項の事実のうち昭和五三年四月不詳日控訴人が本件宅地、建物を金六二五万円で競落したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二ところで、不動産仲介契約とは他人間の不動産売買等の法律行為の媒介、即ちその取引締結の機会を作り、又はその成立の促進、斡旋をすることを目的とし、受託者は、媒介を依頼された取引契約の成立に尽力する義務を負い、委託者は、契約の成立に対して報酬を支払うという契約であり民事仲立と解されるところ、本件のように競売手続進行中の宅地、建物(以下競売物件という。)を競売手続とは無関係に売買を成立させる仲立がありうることはもちろんであるが、そうではなく競売手続に参加し委託者に競落させるために尽力する活動即ち競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競売手続の補佐あるいは受任等の行為が不動産仲介契約にいわゆる媒介に含まれるかどうかがまず問題となる。

私人間の普通売買による物件取得の過程においては、買付委託を受けた受託者としては希望物件の探知、確認、売買の相手方の誘引、条件の決定、契約書の作成、代金の授受、及び所有権移転登記手続等の一連の事務を処理するのが通例である。ところが競売(任意競売、強制競売)による物件取得の過程においては、競売開始決定後、競売期日とともにその不動産の表示、最低競売価額等を記載した公告がなされ、誰でも競売物件の存在、競落取得価額の一応の目安を知ることができる建前になつており、競落希望者は競売手続に参加して最高競売価額を申出れば競落することができ、その間には手続の性質上普通売買のように売主側と価額等の諸条件の交渉をする仲立の余地がない。このように普通売買と競売との物件取得の過程を比較するとき、競売手続において、競落物件を委託者に競落取得させるために尽力する活動、すなわち、競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競買手続の補佐あるいは受任等という意味での媒介の余地があるとしても、それは普通売買における媒介とはその意味が全く異り、本来不動産仲介契約及び報酬額の基準である建設省告示が予定する媒介行為とは類型的に異質な行為であるといわざるをえない。したがつて、委託者に競売物件を競落取得させるために尽力し、その結果受託者が報酬請求権を取得するためには、不動産仲介契約とは別個の契約、即ち競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競売手続の補佐あるいは受任等を目的とし、その報酬支払を約する契約の成立が必要であると解される。

三これを本件についてみるに、被控訴人が主張する請求原因2項の契約は、通常の不動産仲介契約を主張するものであるから競売物件を対象とする本件事案の報酬請求権の根拠とはなし得ず、主張自体失当であるが、同5項の主張は、競売物件である本件土地建物を紹介、案内した際における報酬支払の合意を主張するものであるから、前記二の意味における契約の存在をも主張しているものと解することができるので、以下、この点に関する被控訴人の主張を判断する。

前記争いのない事実と〈証拠〉によれば、被控訴人代表取締役猿渡秀夫は、本件宅地建物が岡山地方裁判所倉敷支部に競売に出ていることを知り、かねて右物件の登記簿謄本を取り寄せ、下見をし、また執行官に境界の確認までしていたこと、右猿渡は、控訴人に対し、本件宅地建物が競売に出ている旨の説明をしたところ、控訴人が右物件の紹介案内を希望したため、昭和五三年三月ころ、右控訴人を現地に案内し、本件宅地及び建物内外を見分させたうえ、競落に要する費用等競売手続の説明をしたこと、右案内及び説明と本件物件の競落とは因果関係があり、控訴人の競落を容易ならしめてこれに寄与していること、以上の事実が認められ、右認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果は措信し難い。右事実によれば、控訴人が競売物件である本件宅地、建物の案内を希望し、被控訴人がこれを承諾して控訴人を現地に案内し、説明をなした時点において前示不動産仲介契約に付随するがこれとは別個の契約として、両名の間に競売物件の情報提供、物件調査ないし案内を目的とする準委任契約が成立したものと認めることができる。もつとも、右契約においては、報酬についての合意を認めるに足る証拠はないものの、商法五一二条に基づき、被控訴人は、右契約の履行が競落に寄与した割合により控訴人に対し相当額の報酬を請求しうるものと解するのが相当である。そして右報酬額は、不動産取引業者の不動産仲介契約による報酬額の基準である建設省告示第一五五二号によるべきものではなく、右準委任契約の履行に要する労力、知識に相応するものであるべきところ、前記認定のとおり、被控訴人は、本件宅地建物の登記簿謄本を取り寄せ、これを下見し、境界まで調査したうえ控訴人を現地に案内し本件宅地及び建物内外を見分させて紹介し、かつ、競売手続の説明をしたというのであるから、右報酬額は、本件物件についての情報の価値、案内や説明に要した労力・費用等競落のために寄与した諸般の事情を考慮して、金三万円を下らないものと解するのが相当である。

四以上の次第であるから、被控訴人は、控訴人に対し金三万円及びこれに対する支払命令送達の翌日である昭和五四年一月一一日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、被控訴人の本訴請求は、右の限度において正当として認容すべきであるが、その余の部分は失当として棄却すべきである。

よつて、これと一部結論を異にする原判決を右のとおりに変更し、被控訴人の付帯控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(早瀬正剛 大内捷司 松本史郎)

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